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21世紀も,COBOLだね
−COBOL生誕40周年トピックス−

「Bit April 2001/Vol.33, No.4」に掲載
今城哲二(日立製作所)
横塚大典(日立製作所)
床分眞一(日立製作所)

7.日本の40周年記念行事

日本でもCOBOL生誕40周年記念行事を実施すべく,企画を日経BP社にお願いした.日経オープンシステム主催,COBOLベンダ7社協賛で,2000年9月18日にCOBOL生誕40周年記念セミナー「eビジネス時代に活きるCOBOL活用法を探る」が東京・平河町で開催された.

申し込みの勢いは予想以上で,早期に300人の定員が満員となり,COBOLへの関心の高さがうかがわれた.セミナー内容は,基調講演,特別講演,およびCOBOLユーザによるパネルディスカッションで,開場前ではCOBOLベンダ4社のデモが行われ,セミナー終了後は懇親会も催された.

●基調講演

日本Linux協会会長の生越(おごし)昌己氏が「eビジネス時代のCOBOL活用法」と題し,現代的ITの問題点とCOBOL文化というテーマで,1時間熱演された(写真3).われわれベンダも含め聴衆はLinuxとCOBOLの組合せを意外に思ったが,生越氏はメインフレームのSE出身で,Linuxが日本で成功するためにはCOBOLとOLTP(オンライントランザクション処理)による信頼性の確保が必須との考えをお持ちである.

<写真3>講演する生越Linux協会会長
講演する生越Linux協会会長

(1)景気の悪化による予算不足,競争の激化による工期不足,多様なシステム形態による技術者不足から,現代的ITには,信頼性や性能,保守性の観点で問題をはらんだシステムが多い.

(2)メインフレームに代表されるCOBOL文化は,綿密な仕様の打合せ,各種ドキュメント作成,階層構造を持つ開発体制,互換性や品質の保証といった特長があり,「堅い」開発を行うものである.

(3)現在は,ある程度のプロジェクト規模と予算を必要とするCOBOL文化よりも,「柔軟に」開発できる言語のほうが注目を集めている.

(4)しかし,いわゆるドットコム的なITソフトウェアは今後ますます高度化し,オンラインシステムと同等の信頼性・性能・保守性が要求されるようになっていく.

(5)したがって,「業務を記述する言語」であるCOBOLは,これまでのノウハウを活かした信頼性の高い言語として,これからも十分に活躍するだろう.

●特別講演

ISO のWG4(COBOL)主査で新婚のアン・ベネットが「COBOLの次期標準化動向」と題して講演した(写真4).彼女は,その前の週は奈良でISO/IEC/JTC1/SC22(プログラム言語と環境)委員会の年次総会に出席しており,2週間続きの滞在である.ご主人といっしょに講演前の15〜17日の休日にはゆっくり京都見物をしてもらい,それから東京で講演という日程を勝手に計画した.ところが,奈良にはアン1人で来日したので,なぜ一緒でないかと聞いたら,"He has a job." 7月のハネムーンで長期休暇をとっているのだから,そうそう休めるわけはない.申し訳ない日程を設定してしまった. <写真4>講演するアン・ベネット ISO COBOL WG 主査
講演するアン・ベネット ISO COBOL WG 主査

講演内容であるが,まずCOBOLの標準化組織を紹介し,特に日本の貢献として,漢字仕様とオブジェクト指向をあげ,さらに言語仕様の品質向上に尽力し多くの言語仕様上のバグ指摘をしていることを賞賛した.奈良の晩餐会でも,品質向上についての日本の貢献を土居先生(慶大)に力説しており,土居先生は西村先生の薫陶の成果ですよと説明されていた.

続いて,2002年に予定されている第4次COBOL規格について,100個以上の改訂項目の中から主要なものの説明した(表2).

<表2>次期COBOL規格の主要機能


●パネルディスカッション

実際にCOBOL言語でシステムを構築している企業に参加いただき,「COBOL技術をeコンピューティングにどう生かすか?」というテーマでパネルディスカッションが行われた(写真5).

<写真5>パネルディスカッション
パネルディスカッション

司会は日経オープンシステムの小原忍編集長で,パネリストは次の3氏である.

それぞれのシステム構築の概要,言語にCOBOLを選択した理由,COBOLを使うことによるメリットとデメリット,社内での標準技法の適用などについての活発な討論が行なわれた.eコンピューティングにおいても,入出力インターフェースなどの部分ではVisual BASICやJavaを使いながら,基幹系システムにはCOBOLを使うことにより,表3のメリットがあるということが,討論を通じて浮き彫りにされた.とくに,社内のIT部門の全員が共用・体得しているシステム開発標準技法の存在と,それとCOBOLとの相性の良さとが,このパネルでの基本トーンであった.

<表3>COBOLのメリット


●懇親会

セミナー終了後の懇親会には多くの聴衆が残り,セミナー講師・パネラと主催・協賛会社の面々も交えて,COBOLに関する情報交換と質疑応答が酒を飲みながら和気藹々と繰り広げられた.聴衆の中にはひょっとしたら自分の会社だけが廃れた言語にすがりついているのではないかとの不安を持って参加した人もいた.このセミナーでその不安も解消され,COBOLに関心をもつ仲間がたくさんいることの共感と,自分たちの選択に誤りのなかったことを確信しながら,貴重な時間を過ごしていただけた.

懇親会の最初に主催社を代表して日経BP社の松崎常務の挨拶があり,1990年代に日本の情報業界と情報システムのオープン化を推進してきた日経BPの諸雑誌では,COBOL報道をほとんどしてこなかったが,今回のセミナーでCOBOLへの期待が根強いことがわかった.今後はCOBOLの報道やセミナーを心がけていきたいと感想を述べられた.

セミナーには国内でCOBOL標準化に貢献した方々をお招きした.とくに第1次と第3次のJIS COBOL原案作成委員長の水野幸男氏(NEC)と西村恕彦先生はセミナー会場で紹介され,万雷の拍手を受けられた.懇親会場では,1960年代にCODASYL COBOLを翻訳・紹介した西村先生と丸山武氏(富士通)がスピーチされ,西村先生は今後のCOBOLに期待し確信していると話された.協賛会社を代表して今城が挨拶し,標準化に尽力いただいた方々と講師・パネラに感謝の意を表した(写真6).

<写真6>懇親会場で協賛会社を代表して挨拶する今城
懇親会場で協賛会社を代表して挨拶する今城

1970年代の日本のCOBOL(の標準化)を支えた懐かしい方々(吉村さん:管理工学研究所,魚田さんと小碇さん:三菱電機,毛利さんと瀧山さん:富士通,松本さん:日立,城戸さん:NHK,など)の久しぶりの交歓が随所で見受けられ,懇親会の最後のころはCOBOL同窓会のオールドパワーに会場は圧倒されていた.


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